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2025.03.21

知財高裁大合議判決(令和5年(ネ)第10040号 損害賠償請求控訴事件)

2025年3月19日に、知財高裁大合議事件の判決が言い渡されました。

<事案の概要>

控訴人(第1審原告)は、特許第5186050号の特許権者である。本件の対象となる特許発明は、①自己由来の血漿(けっしょう)、②塩基性線維芽細胞増殖因子(b-FG F)、③脂肪乳剤の3つの成分を含有する「豊胸用組成物」の発明である。 控訴人は、医師である被控訴人(第1審被告)が、その経営する美容クリニックにおいて提供する「血液豊胸術」に用いるための薬剤を生産したことによって、控訴人の上記特許権が侵害されたとして、被控訴人に対して損害賠償金の支払を求めている。 原判決は、被控訴人が上記①~③の成分が同時に含まれる薬剤を調合して被施術者に投与したと認めるには足らないとして、特許権侵害を認めず、控訴人の請求を棄却した。

<主な争点>
○ 本件特許発明の組成物を生産するには被施術者から採血する必要がある。また、この組成物は被施術者に投与することが予定されている。このように前後に医療行為を予定する本件特許発明は、「産業上利用することができる発明」(特許法29条1項柱書)でないから特許の対象とされるべきではなく、特許は無効であるか。

○ 特許法69条3項の規定により、医師である被控訴人が上記①~③の成分が同時に含まれる薬剤を調合する行為には、特許権の効力は及ばないか。

○ 被控訴人が上記①~③の成分を別々に被施術者に投与し、これらの成分が体内で混ざり合った場合に、被控訴人に特許権侵害が成立するか。

<判決の要旨>
○ 医師が、被施術者から採取した血液を原材料とする豊胸手術用混合薬剤を製造した行為が、豊胸用組成物に関する特許発明の実施に当たるとされた事例

○ 人間から採取したものを原材料とし、最終的にそれがその人間の体内に戻されることが予定されている物の発明に係る特許が、特許法29条1項柱書きの「産業上利用することができる発明」の要件に違反されて特許されたものとはいえないとされた事例

○ 豊胸用組成物の特許発明は、特許法69条3項の「二以上の医薬(人の病気の診断、治療、処置又は予防のため使用する物)を混合することにより製造されるべき医薬の発明」に当たらないとされた事例